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2016.06.17 14:07 著名人卒業生シリーズ

著名人卒業生_第7回 – 吉川 一義さん -【高校18期】

IMG_3084sss 今回は、世界的に高名な仏文学者で、マルセル・プルーストと美術の関係などを研究されている、京都大学名誉教授の吉川一義さん(高校18期)にインタビューさせていただきました。
 吉川さんは、2009年より日本フランス語フランス文学会会長(13年まで)。2010年に、フランス政府から教育功労章(オフィシエ級)を受章、アカデミー・フランセーズ(フランス学士院)より、学術大賞の一つ「フランス語フランス文学顕揚賞」(1960年設立)を受賞されました。また2011年『プルーストと絵画芸術』(仏語版)で仏本国のカブール=バルベック・プルースト文学サークル文学賞受賞。2012年春には、日本学士院賞・恩賜賞を受賞されておられます。

昨日は、高津18期の同期会にご参加とお聞きしました、いかがでした
 久しぶりに大阪で卒業50年記念の同期会開催ということで参加しました。90名近くが集まって、わいわいがやがやと大へん楽しい時間をすごしました。68才ともなると大病を経験した仲間も多いのですが、皆さんの元気なことに驚嘆しました。同期生と話していると、一気に高校時代に戻ったような気になります。われわれ戦後のベビーブームの世代は、日本の高度成長を謳歌できたようで、高津では先生がたも生徒も、標語の「自由と創造」そのもののような個性豊かな人が多かったですね。授業をサボって屋上で遊んでいて(?)先生に注意されたり、上六の喫茶店バロンの2階でビリヤードを楽しんだりしたこともなつかしい思い出です。自由な気風のおかげか、高津からは多彩な人材が輩出されているように感じます。

理科系クラスから、東京大学の仏文科に進学されたわけですが
 天王寺区で生まれ育って、どちらかというと虚弱な子供でしたが、五条小学校のころから理科が大好きで、実験室と称して祖母の家の屋根裏にビーカーやアルコールランプなどを持ちこみ、石鹸をつくったりしていました。一方、小説を読むのも好きで、夕陽丘中学時代にはスタンダールの「赤と黒」など外国の長編もあれこれ読んでいました。高津では、だれもが科学技術の目覚ましい発展に目をみはっていた時代ですから、自然な流れで理系クラスを選択しました。そのころは京大の理系に進んでエンジニアにでもなろうと考えていたのです。
 ところが、高校3年の文化祭で芝居をやったのが楽しくて、理科の実験や数学の計算がばからしくなったのか、東大の仏文科に進みたいと宣言してしまいました。進路変更は、公式には芝居のせいにしていますが、英語や数学や化学などはある程度得意でしたが、途中から物理だけは理解できず(そうなると理解している同級生数名が天才に思えたものです)、まじめな勉強から逃げ出したのが正直なところかもしれません(笑)。
  この文学部志望は、両親の強い反対にあいました。文系にするのなら法学部を受験しろというのです。その両親を説得してくださったのが、高名な仏文学者・渡邊一夫著作集を愛読しておられた3Eクラス担任の下長利一先生でした。趣味のようなフランス文学を仕事にできたのは、なによりも先生のおかげです。また下長先生の英語の授業では、翻訳の基礎も教わったと思っています。

その劇については、名簿誌『群芳』でも読ませていただきました。IMG_3082ss
 同期の藤森益弘君が有島武郎の『ドモ又の死』を脚色演出した芝居で、のちに直木賞作家となった故藤原伊織(利一)君など個性豊かなメンバーで、3年生(1965年)の秋の文化祭で上演しました。大道具づくりから稽古、上演までの毎日は、高校時代の最大の思い出であると同時に、私の進路を一変させるものになりました。高津の同窓会名簿誌『群芳』(2006年刊)には、偶然、藤原伊織君も私も原稿でこの芝居に触れました。同じころ「文藝春秋」の「同級生交歓」から依頼があって、藤森君と藤原君と私の3名で出ました。

(編集者注)「文藝春秋」の「同級生交歓」には、先日も100周年実行委員長の岡藤正広さんをはじめ、高校20期の8名が掲載されたことを告げると、「あのなかの医者・吉川雄二は弟なんです」と言われてビックリ。なんと兄弟揃って高津出身で「同級生交歓」に掲載されたんですね。
★20期を掲載した記事はこちら ⇒ http://kozu.cc/info/2016/02/23180506

ここ何年かはプルーストの研究に専念されていますが。
51DcSp8UsYL 東京女子大で10年、東京都立大(現首都大)で18年、京都大で6年、フランス語とフランス文学を教えてきましたが、すこしでも一般のかたがたの役に立つ仕事としては『ディコ仏和辞典』(共編、1993年初版)くらいしか出していませんでした。
 ここ10年ほどはプルーストの『失われた時を求めて』(岩波文庫)の翻訳に没頭しています。全14巻の予定で、現在9巻まで出ています。プルーストの文章は長くて構文が複雑なせいだと思いますが、教養あるフランス人でも途中でわけがわからなくなる部分もある難物で、翻訳も大変です。順調にいっても、あと3年ほどかかると思います。2012年の定年後は、ときどき旅行に出かけたり、内外のシンポジウムなどに参加したりはしますが、ふだんは東京の自宅で机に向かう毎日で、女房からはまるで座敷牢だと言われています(笑)。じっと座っていてエコノミー症候群になりかかったので、今はかならず毎日一時間は外に出て、散歩をするかプールで泳ぐかしています。以前は1日に80本のタバコを吸うヘビースモーカーでしたが、40歳の誕生日プレゼントに子供から『5日でタバコをやめる法』という本を渡され、それを実践して禁煙してからは、まあ健康的な生活を送っています。

母校の創立百周年に向けてのお言葉を。
 昨日の同期会でも、校長先生から高津高校の現状報告をうかがい、募金委員長から百周年事業についての説明もありました。進学実績はもちろん重要ですが、それだけではなく自由な気風という高津のいい伝統を受け継いで、多彩な人材を育ててほしいですね。府立高校初という「高津クリエイトラボ」は、高津らしい個性的なスペースになるといいですね。来年8月に竣工だそうですが、生徒たちだけではなく、卒業生のホームカミングデーなどにも活用できないでしょうか。私もなんらかの形で協力させていただければと思っています。2018年11月24日の100周年記念祝賀会は、大阪と東京の二元中継だそうですね、参加させていただくのが楽しみです。

IMG_3145ss【取材後記】
 前日の同期会が開催されたKKRホテル大阪のロビーで日曜日の朝10時から取材させていただきましたが、12時から同期生たちと九島院で藤原伊織さんの墓参をされて、午後に帰京されるという慌ただしいスケジュールにもかかわらず、地下鉄の時間ギリギリまでゆっくりとお話をして下さり、『失われた時を求めて』の最新刊を同窓会にプレゼントしていただきました。ここには書けませんでしたが、東大闘争時のケガの話など、興味ぶかい話に笑いも絶えないインタビューとなりました。また、創立100周年記念事業の話も興味を持って聞いてくださいました。最後に「いろんなことを思い出せて楽しかったです」というお言葉とともに、リュックを背に軽やかに歩いて行かれました。。

                            取材日 2016.05.29

★吉川さんが巻頭を飾られた、同窓会報fromKOZU 28号はこちら ⇒ http://kozu.cc/fk/fk28/index.html

↓ 写真は、「文藝春秋」の「同級生交歓」
文芸春秋「同級生交歓」-18期


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