会員からのお知らせ

トップ > 会員からのお知らせ > 【高校20期】 吉川賢氏 『森林に何が起きているのか-気候変動が招く崩壊の連鎖』出版のお知らせ
2023.05.08 14:52

【高校20期】 吉川賢氏 『森林に何が起きているのか-気候変動が招く崩壊の連鎖』出版のお知らせ

高校20期 吉川賢氏による著書
「森林に何が起きているのか-気候変動が招く崩壊の連鎖」が出版されました。

あるインタビューで吉川さんは「エッセイストになるのが夢」と語っておられました。この本の目次に12編のコラムが載っていましたので、まずはそれを先に読んでみようかと思いましたが、思いとどまって本論の初めから順に読み進めました。序章から第3章まで気づかないことに目を向けさせてもらいましたが、少し学術的で緊張を強いられました。ところがコラムでほっと一息つけました。本論とのつながりを持ちつつ、ユニークな実地体験が綴られていて飽きませんでした。コラムで緊張をほぐして次の本論に向かうことができて、さすが吉川さんとうなっていました。
第4章と第5章は日本のことなので、それまでの世界各地の叙述と違って身が入りました。すでに第3章までの記述に「この点については第4章で詳述しよう」とか「第5章で触れるように」とか予告されていましたので期待を寄せていました。その期待は違えることありませんでした。
吉川さんの文章はウィットに富んでいます。何カ所も感心する記述がありましたが、ここでは第4章にあるマツタケに関する2つの文章を抜粋します。
「マツタケを増やすにはかつて里山を利用していたころのような痩せたアカマツ林に戻せばよいのだが、それがなかなか手間のかかることであり、まだしばらくはマツタケは、低い里山にあるのに、高嶺の花であり続けるだろう。」
「マツタケの入ったすき焼きを最後に食べたのはもう50年近く前のことである。まちろん、そのときはマツタケは一人何切れと決められていたように思う。」
第5章は考えさせられました。特に3「日本の林業を取り巻く環境」と4「森林の統合的管理」は再読しました。「この50年間、伐採が行われなかったので、新しい育ち盛りの森林がなくなってきているのだ。日本は、人も山も少子高齢化で老人ばかりになっている」という記述が再読を促してくれました。
「おわりに」に書かれている次の一節から、50年前に地歴部の山村調査で林業を考えたことがよみがえりました。吉川さんの警鐘は、あの時代からの年月を振り返り、これからに目を向けるきっかけになりました。感謝とともに静かに本を閉じました。
「気候変動で劣化した森林に対して、対策技術を持つ者は現地を知る者から彼らの知見を学び、現場では技術の限界を精査し、その情報をフィードバックできれば、少年の日に憧れた鞍馬天狗のように、森林生態系はきっと我々の強い味方になってくれるだろう。手元が滑って足下のバケツの中に辞書を落としてしまったのは苦い思い出だが、あのころの未来への漠とした希望を思い出して、力一杯鐘を鳴らしてみたのが本書である。読者諸兄姉にはどんな音色に聞こえただろうか。」

ー紹介文ー(21期 岡本好行氏)

 註)岡本氏は在校中地歴研究部に所属、宮崎県椎葉村などの山村調査に参加しました。そのクラブの1年先輩が吉川賢氏(岡山大学名誉教授)。

 

試し読みできます→森林に何が起きているのか-気候変動が招く崩壊の連鎖 (中公新書 2732) | 吉川 賢 |本 | 通販 | Amazon


ページのトップへ